『安堵の溜息』の価値

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~「知らない」と言えない新任マネージャーが、ありのままの自分を取り戻すとき~


キャリアコンサルタントとして新任マネージャーの面談をしていると、画面越しに彼らが抱える「共通の戸惑いや、深い迷い、悩み」を感じることがあります。

パソコンの画面越しに映る、ある新任マネージャーの顔。彼はカメラを直視することができず、どこか一点を見つめるような、うつろな表情をしていました。何かを考えているというより、ただ視線の置き所に困り、深い悩みの中にいる……。そんな様子で、彼はぽつりと言葉を絞り出しました。


「部下の方が現場の業務に詳しくて……。正直、毎日が不安なんです。マネージャーとして、何か正解を言わなきゃいけない、アドバイスしなきゃいけないと思うのに、何も言えない自分が情けなくて……。」


彼を追い詰めているのは、「管理=コントロール」という目に見えない呪縛です。昭和から続く「上司は部下より優れていなければならない」という組織の暗黙のバイアスが、彼に「完璧な上司」という重すぎる鎧を着せていました。


成果主義が浸透した組織では、効率を求めるあまり、上司が部下に細かく指示を出す「マイクロマネジメント」が正義とされがちです。しかし、皮肉なことに、「正解」を押し付ければ押し付けるほど、部下は主体性を失い、物理的な距離以上に、心の距離が遠ざかっていきます。


そんな彼に、私はいくつかの「問い」を投げかけます。それは、彼を縛り続けてきた「正解」という重荷を下ろし、「完璧でなくてもいい」と自分を許すためのプロセスです。


鎧を脱ぐための、3つの問い


1.「もし、部下があなたのアドバイスを100%忠実に再現し続けたら、この先、あなたの仕事は本当に楽になりますか?」

【得られる気づき:コントロールの限界】

この問いを投げかけると、多くのマネージャーはハッとされます。アドバイスを徹底するほど、部下は「上司の指示待ち」になり、結局すべての判断が上司の元に返ってくる。今のやり方は、自分自身を永遠に忙しくさせる「終わりのないマラソン」であることに気づき、手放す勇気が芽生え始めます。


2.「業務に詳しくないあなただからこそ見える『素朴な違和感』は、現場にどっぷり浸かっている部下には見えない、貴重な視点だと思いませんか?」

【得られる気づき:無知という名の客観性】

「知らない自分は無価値だ」という思い込みをリフレーミングします。現場に精通しすぎている部下は、慣習や思い込みに囚われていることがあります。詳しくないマネージャーの「そもそも、なぜこれが必要なんですか?」という純粋な問いこそが、組織の盲点を突き、真の納得解を導き出す「価値」になるのです。


3.「もし、あなたが『私は詳しくないから、君の専門性を頼りにしている』と正直に伝えたら、部下はどんな表情をすると思いますか?」

【得られる気づき:信頼によるエンパワーメント】

弱さを見せる(自己開示する)ことは、部下への強力な「信頼表明」です。「任された」と感じた部下の顔が、依存から主体性へと変わる瞬間を想像してもらいます。完璧な上司を演じるのをやめたとき、チームに「共創」の余白が生まれることに気づいていただきます。

「知らない=マネージャーとして価値がない」と思い込んでいた彼の表情が、一瞬、固まります。沈黙の中で、彼は自分の中の「正解主義」と戦っているようでした。

そして、画面の中の彼から、深く長い溜息がこぼれました。その安堵の溜息とともに、張り詰めていた肩の力が抜けていくのが見えました。うつろだった瞳に、少しずつ確かな光が戻ってきます。


「……そうか。ありのままの自分でいいんですね。知らないことを隠さなくていいんですね。」


その溜息は、彼が自分自身を許した瞬間でした。「正解」を出すことがマネージャーの務めなのではなく、部下と共に「納得解」を創り出していく。そのために隣で伴走することに、彼は自分なりの「答え」を見出したようでした。

顔を上げ、私の方をまっすぐ向いた彼の表情には、「明日、部下に教えてもらうのが楽しみだ」という、新しい役割への希望が宿っていました。

もし、あなたが今、役割に息苦しさを感じているなら、一度立ち止まって、自分に「安堵の溜息」をつかせてあげてください。あなたが鎧を脱ぎ、「ありのまま」で向き合い始めたとき、チームは本当の意味で動き出すのです。

マネージャーに、気の利いたアドバイスはいりません。

完璧な正解を提示することよりも、分からないことを分かち合い、部下を信じて問い、共に答えを探していく。

そんな「共創型のリーダー」への一歩こそが、これからの時代に求められるマネージャーの姿なのです。



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